「マセラティは今後 2〜3 年以内に黒字化する。鍵は、“適量を作り、確実に売る”生産モデルへの移行だ。」
2025年11月、Maserati CEO ジャン=フィリップ・インパラート(Jean-Philippe Imparato)がイタリア本国で発した言葉は、ブランドの未来を左右する“決定的なシグナル”だった。
この宣言は単なる決意ではない。マセラティが 従来の大量生産志向から、少量生産(Build-to-Order)へ舵を切る という、ブランド史でも数少ない大転換の意思表明である。
1. なぜ「少量生産」に踏み切るのか?数字が語る必然
■ 売上・納車の落ち込み
- 2025年第3四半期(Q3)のマセラティ納車は 1,700台(前年同期比-19%)
- Stellantisグループ全体が+13%成長する中、マセラティだけ逆行
このギャップは、「量に依存した構造では勝てない」ことを如実に示している。
■ モデル投入の遅れ
- Grecale や GranTurismo のサイクルが読みづらく、在庫・生産調整が難化
- EV(Folgore)計画も明確なスケジュールが出せず、投資回収が遅延
つまり、大量生産前提の経営モデルがフィットしない 状況が続いていた。
2. 黒字化へ向けた“唯一の答え”:Build-to-Order = 受注生産モデル
CEO インパラートが示した方向性は明快だった。
「我々は“必要な分だけ作る”。無駄な在庫を持たない。」
——Maserati CEO
これは、量産ではなく、
オーダーを受けてから生産する「Build-to-Order」モデルへ移行する ことを意味する。
★ Build-to-Order の特徴
- 生産量を「需要の範囲」に絞る
- 完成車在庫を極小化し、キャッシュフローを改善
- 生産ラインを“高付加価値仕様”へ集中させ、単価を引き上げる
- 結果として「少量でも利益が出る体制」を作れる
これはフェラーリやランボルギーニが長年採用してきた構造である。
3. そのための“モデナ回帰”——生産哲学の再構築
今回の Build-to-Order への転換を支えるのが、
GranTurismo/GranCabrio の生産をミラフィオーリ → モデナへ戻した決断だ。
■ モデナ工場(Viale Ciro Menotti)の意味
モデナはマセラティ創業の地であり、
大量生産ではなく、
熟練工による少量生産とカスタム対応に最適化された工場 だ。
■ Fuoriserie / Bottega の併設
- 特注仕様を生む「Fuoriserie」
- 少量限定を扱う「Bottega」
- クラシック再生の「La Storia」
これらは 量ではなく“質”で戦う工房型ブランド への転換を象徴している。
4. 黒字化と“少量生産”はどう繋がるのか?
✔ ① 固定費を減らす
大量生産工場は、稼働率が少しでも下がると赤字になる。
しかし少量生産工房では、
「必要な分だけ作り、確実に売る」ことで損益が安定する。
✔ ② 建値(販売単価)を上げられる
カスタム(Fuoriserie)、ワンオフ、限定生産は利益率が高い。
Build-to-Order は自然と高付加価値モデルに寄せられる。
✔ ③ 在庫が減る=キャッシュフロー改善
黒字化に直結する最重要ポイント。
在庫を抱えない経営は、キャッシュが枯れにくい。
✔ ④ ブランド価値が上がる → 需要が安定する
希少性が保たれるため、需要調整がしやすくなる。
“マセラティは注文して作ってもらうクルマ” という文化を育てられる。
結論として、
“少量生産”は、マセラティが黒字化するための最短ルート である。
5. エンスージアスト視点:マセラティは本来「少量生産の哲学」で輝く
- 1950s:スポーツカーはすべて手作業
- 1960s:競技車を少量生産し、ロードカーに技術が流れる
- 2000s:MC12も実質“少量ハンドビルド”
歴史的に見れば、
マセラティは「大量生産ブランド」ではなかった。
モデナ回帰も、Build-to-Order も、
実は ブランドのDNAに戻る動き である。
6. まとめ:マセラティは「数ではなく価値」で勝つブランドへ
今回の CEO 発言は明確だった。
“量ではなく、価値。そのために少量生産へ移行し、2〜3年で黒字化する。”
マセラティは、
- モデナへの生産集約
- Fuoriserie/Bottega 強化
- ワンオフ/限定モデル戦略
- Build-to-Order 型の収益構造
このすべてを連動させることで、
“プレミアム・クラフトマンシップ・ブランド”への再誕生を狙っている。
フェラーリでもランボルギーニでもない、
「マセラティとしての価値軸」 を取り戻すための、大きな転換点だ。

