“40%から20%へ” 伝統と市場の板挟みで揺れるマラネッロ
株価急落、1日で時価総額1兆円超を失う
10月9日、マラネッロ本社で開かれた戦略説明会で、フェラーリは初の完全電動モデル「Elettrica(エレットリカ)」を正式に公開した。
同時に2030年までに電動車(BEV)の構成比を40%から20%へと縮小する計画を発表したことで、市場は大きく反応した。
ロイターによると、発表直後にフェラーリ株は最大16%下落、1日でおよそ**135億ユーロ(約1兆1,800億円)**が市場から消えた。
これは2016年の上場以来、最大の下落率となる。下記のグラフの通り10月9日近辺で急激に株価が下落したことがわかる。

投資家の失望の背景には、電動化率の引き下げだけでなく、2028年までの営業利益見通しが市場予想を下回ったことがある。
発表の場では、「ブランド価値を守るための慎重な投資姿勢」と説明されたが、株式市場はこれを“後退”と受け止めた。
「速さより静寂」への違和感:Elettrica の技術概要
公開されたElettricaは、モデナ郊外の新設EV工場で2026年にも量産予定とされる。
最高出力はおよそ610kW(830馬力相当)、0-100km/h加速は2秒台前半。
しかし、同社の誇るV型12気筒やV8ツインターボとは異なり、「無音の加速」に対してファンの間では賛否が分かれている。
フェラーリCEOのベネデット・ヴィーニャ氏は次のように語った。
「Elettricaは、フェラーリが音を失うことを意味しない。我々は“感情を再定義する技術”を開発している。」
だが、エンジンサウンドがブランドのアイデンティティそのものであるフェラーリにとって、**“音を再現する技術”**という表現自体が象徴的だ。
その開発費は、同社の研究開発予算の20%を占めるという。
アナリストの反応:「理想主義から現実主義への転換」
ロンドン市場のアナリストらは、今回の発表を「理想主義から現実主義への転換」と分析している。
EV需要が想定よりも伸び悩む中、フェラーリが高級車セグメントで“拙速な電動化”を避けたのは合理的だという見方もある。
下記の6月の株価は実は横ばいであったが、ここへきて急落している。年末に向けて何処まで回復できるか注視する必要があるが、筆者も株主として、何とか現状は円安によって助けられている状況だ。

一方で、ブルームバーグは「市場が求めていたのは“新しい未来像”だった。フェラーリは未来を描くことよりも、守る道を選んだ」と評した。
ブランドが象徴する“夢”を投資家がどこまで支持するか──そこに今回の急落の本質がある。
🏁 内燃機関へのこだわり:V12・V8・V6の継続
フェラーリは今後も、改良型のV12・V8・V6エンジンを生産し続ける方針を明言した。
2030年時点のラインナップ構成は以下の通り:
- ハイブリッド車(PHEV):約40%
- 内燃機関(ICE):約40%
- 完全EV(BEV):約20%
つまり、8割がエンジンを搭載する車であり続ける計算だ。
これは、ポルシェが2030年までに80%の電動化を掲げる姿勢とは対照的である。
フェラーリらしさ”とは何か
クラシックカーファンの視点から
クラシックフェラーリを愛する層からは、「この決断は勇気ある選択だ」との声も上がる。
特にイタリア国内では、旧車文化やレストア産業が根強く、完全EV化は雇用・産業構造の転換リスクを伴う。
筆者(クラシックカーファン)としても、フェラーリが“音と熱を持つ機械”をまだ手放さないことに安堵を覚える。
Elettricaの誕生は新しい章の始まりだが、マラネッロの鼓動が電子音だけになる日は、まだ少し先であってほしい。