イタリアにおける国産車(イタリアで生産されたモデル)の最も売れたベスト50が公開されている。
こちらの統計は、イタリア国内にある工場で生産されたモデルの販売ベスト50だが、最も興味深いことは、ランチア・イプシロンが入っていないことだ。つまりイプシロンはポーランドの工場で生産されているために、純粋にイタリアでの生産されたクルマでないので、カウントされず外国車として扱われている。したがってフィアット500も同様に外国産(ポーランド)なので、カウントされていない。これは日本的観点からすれば、逆輸入車ということになるだろう。つまりランチア・イプシロンはイタリアのブランドありながら、「メイドインイタリー」ではないということになる。
また、その逆もあるのだ、たとえばJEEPがそれに当たるのだが、以前であればJEEPといえばアメ車として誰もが思うが、今やJEEPは南イタリアのメルフィ工場で生産されているのは周知の事実だ。したがってJEEPレネゲードはイタリアの国産車となる。ドイツのVW傘下のランボルギーニ各モデルも、サンタアガタ・ボロネーゼの工場で生産されているので、イタリア国産車となる。
ここで更に注目したいのは、日本では全く知られていないメーカーがカウントされていることだ。
6位、7位に「DR」、11位、14位に「EVO」、17位に「EMC」、19位に「Sportequipe」、35位に「x K2」、41位に「Cirelli」 。。。。
DRはフランスのDSオートモビルとは全く違う、Cirelliは自転車メーカーのチネリとは別物である。これらの名前の自動車ブランドは実は新興自動車メーカーなのだ。
DRは、正式名称「DRモーターカンパニー」。2006年に中国の奇瑞汽車から瑞虎(ティゴ)SUVのセミノックダウンキットの供給を受けて組立を開始した。筆者もイタリアでこのDRのエンブレムを見た時、何だろうと「?」マークが頭の中に残ったのだ。
EVOは、正式名称「アウトモビリ・エヴォ」。前項のDRグループに属し、DRブランドがより上級なSUV販売し、EVOはその下位に位置てしている。設立は2020年ととても若い企業だ。
EMCは、「Eurasia Motor Campany」ユーラシアモーターカンパニー。工場はベルガモとブレシアの中間地点にある。バイフューエル(LPG/ガソリン)によるコンパクトSUVで、こちらも中国資本によるものだ。設立は2022年。
Sportequipeは、「スポルテキップ」と読み、DRオートモービルグループの中でもよりスポーティなSUVを担当する。設立は2023年。
ICH-Xは、「イーチーアッカイクス」と読み、DRグループの中で完全なオフロード専用自動車である。2022年に設立。
Cirelliは、「チレッリモーターカンパニー」と読み、2018年に中国の自動車メーカーSWMによって設立された。
なんとこれら6社は全て2000年代以降に設立され、ほとんどSUV専用メーカーなのだ。全て中国資本でありながら、イタリア国内で生産されているので、イタリアにとって国産車なのだ。
このことについて、イタリア在住の自動車ジャーナリストである大矢アキオ氏が、こう述べている。
第1は、「ブランドの国籍や製造国に対する意識の希薄化」である。背景には、イタリア人の思考が、より国際的になったことがあろう。
その次段階として、イタリア人のモノに対する意識をよりボーダーレスに導いたのは、スマートフォンやPC関連機器の普及である。もはや多くの人は、そうした最先端技術を駆使したプロダクトが、中国をはじめとするアジアの生産拠点製であることを知っている。
上記と関連するが、購入する世代の変化もある。若い世代は、歴史的自動車ブランドが果たした過去のレースの戦歴などには、あまり関心がない。
第2は「パワーユニット多様化の波に乗っている」ことだ。前述の新興ブランドはガソリンエンジン車もしくはLPG/ガソリン併用エンジン車のみのDRを除いて、いずれも電動車を前面に押し出したブランドである。
そして第3は、地元有力自動車ディーラーによる、新興ブランドの取り扱いが始まったことだ。
いかがでしょうか。もはや我々が抱いているイタリアにおける歴史的ブランドのイタリア車は、劣勢に立たされている感があるのは否めない。今やイタリア車のトレンドは、中国資本ブランドのSUVを手に入れることが「イタリア車好き」と言えるかもしれない。