2026年イタリア・マニアック紀行:理想都市の静寂に迷い込む・モデナからサビオネータへのショートトリップ

イタリア、エミリア・ロマーニャの活気あるモデナから車を走らせること約1時間強。ポー川を越え、ロンバルディアの平原の中に突如として現れる星形の城壁に囲まれた街、それが**サビオネータ(Sabbioneta)**です。

今日はレンタカーのシトロエンC5を駆って、この「理想都市」を訪ねてきました。昨年訪れたマントヴァ。あちらはゴンザーガ家が数世紀にわたって既存の都市を拡張・再構築し、重厚な歴史の層を積み重ねてきた「生きた街」でした。広大なドゥカーレ宮殿やテ離宮を歩き、活気ある広場でエスプレッソを味わった記憶が今も鮮明に残っています。

それに対し、今回のサビオネータはどうでしょうか。

同じゴンザーガ家の系譜でありながら、ここはヴェスパジアーノ公という一人の男の意志によって、一朝一夕に、かつ「ゼロから」造り上げられた、いわば人工的な理想郷です。マントヴァが、歴史の荒波に揉まれながら成長してきた**「呼吸する都市」だとするならば、サッビオネータは、ある一瞬の完璧な美しさを永遠に閉じ込めた「静止した都市」**。
この二つの都市を訪れて初めて、ゴンザーガ家が追い求めたルネサンスの精神が、動と静の両面から補完され、一つの完成された物語として立ち上がってくるのを感じます。マントヴァの喧騒を知っているからこそ、サビオネータの “Ci sono meno gente” な静寂がいっそう際立ち、この「小さなアテネ」が抱える孤独なまでの美しさが、より深く胸に迫ってくるのです。

ヴェスパジアーノ公の夢の跡

サビオネータは、16世紀後半に公爵ヴェスパジアーノ・ゴンザーガが、何もない土地に己のルネサンス的理想を具現化するために造り上げた都市です。「小さなアテネ(La Piccola Atene)」とも称されるこの街は、2008年に隣接するマントヴァと共に世界遺産に登録されました。しかし、一歩足を踏み入れて驚いたのは、その**圧倒的なまでの「静寂」**です。

時が止まった「箱庭」

主要な見どころであるオリンピコ劇場や、総長約97メートルにも及ぶ古代ギャラリーは、建築としての完成度が極めて高く、当時の栄華を今に伝えています。特にスカモッツィ設計の劇場に足を踏み入れると、ルネサンス演劇の熱気がそのまま真空パックされたかのような錯覚に陥ります。一方で、街全体を歩いて感じたのは、驚くほど人が少ないということ。イタリア語で言えば “C’è meno gente”。観光地らしい喧騒はどこにもなく、自分の足音だけが古いレンガに反響します。

「完璧」が生む不思議な退屈

正直に言えば、あまりの静けさに “Forse è un po’ noiosa”(もしかしたら、ちょっと退屈かもしれない) と感じる瞬間もありました。しかし、その「退屈さ」こそが、この街が持つ「理想都市」としての宿命なのかもしれません。生活のざわめきを排し、美と知性、そして秩序だけで満たそうとした公爵の夢。その完璧すぎる設計図が、400年経った今もなお、誰もいない舞台装置のように維持されている……。そんな「贅沢な孤独」を味わえるのが、サビオネータの真の魅力だと感じました。

旅のメモ:アクセスと駐車場

モデナから向かう場合は、城壁の南東にある Via Fornace 駐車場 が便利です。ヴィットーリア門のすぐそばにあり、そこから歩き出すと、この静かな理想都市の物語へスムーズに入り込むことができます。

都会の喧騒に疲れたとき、あえてこの「何もない、完璧な空間」に身を置いてみるのはいかがでしょうか。

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