今年11月27日に創立120周年のメモリアルイヤーを迎えるランチア
新型イプシロンの欧州発売や、次世代フラッグシップ「ガンマ」の生産発表など、ステランティス傘下での近未来的なニュースが日本のメディアでもポツポツと報じられている。
実は、新車のEVコンパクトで街をスマートに流すカタログの裏側で、本国イタリアのガチなランチスティ(ランチア信者)たちが、今まさに血を滾らせてカウントダウンを進めているド級のリアルタイム・イベントがある。


それこそが、本国で最も権威のある公式オーナーズクラブが主催する記念ラリー、“Lancia Club 120° – Roma-Torino” だ。
本国の一次情報から、その圧倒的なスケールと、9月にイタリアの背骨を駆け抜ける泥と栄光のタイムラインを紐解いてみたい。
◆ 歴史の首都から故郷トリノへ:7日間の至高のルート
現地時間2026年9月7日から14日までのちょうど1週間、イタリアの路上はランチアの歴史そのもので埋め尽くされることになる。
発表された公式ルートは以下の通りだ。



- 9月7日(月) 【出発】ローマ(Roma) すべての道はローマに通ず。120年の旅路のスタートにふさわしい永遠の都の石畳を蹴り立てて、ラリーの幕が上がる。
- 9月8日〜11日 【北上】ボローニャ 〜 モデナ 〜 ピアチェンツァ イタリアのエミリア=ロマーニャ州、いわゆる「モーターバレー」の心臓部を縦断。モデナの風を感じながら、純血のマルチシリンダー・サウンドが芸術都市を駆け抜けていく。
- 9月14日(月) 【終点】トリノ(Torino) ランチアの故郷であり聖地、トリノにてグランドフィナーレを迎える。
単なる近所のクラブミーティングではない。世界中から国際ランチア・クラブ(Lancia Club internazionali)の重鎮やコレクターたちがこの終着地に一斉に合流し、メーカー公式の『Heritage HUB』や国立自動車博物館(MAUTO)を文字通りジャックする一大国家イベントなのだ。



◆ 参加を許される「純血のタイムマシン」たち
このラリーの凄みは、そのエントリーリストのストイックさにある。
排ガス規制や環境対策といった2026年現在の綺麗事は、この7日間だけは完全に締め出される。路上を走るのは、120年の歴史を文字通り支えてきた美しき怪物たちだ。
ヴィンチェンツォ・ランチアの魂が宿る戦前の名車「ラムダ」から、戦後のグランツーリスモの頂点「アウレリア」、ラリーの黄金期を築いた「フルヴィア」「ストラトス」、そして我々オールドファンにとっての絶対的アイコンである「デルタ・インテグラーレ」まで、乾いたエキゾーストノートを響かせながら、当時のままの姿でイタリアの道を文字通り「自走」する。



これこそが、メーカーがプロモーションのために用意したピカピカの展示車ではなく、世界中のオーナーがガレージの奥でガソリン臭に塗れながら意地で維持し続けてきた「生きているランチア」の姿なのだ。



◆ 伝統を「記号」にしない、オヤジたちの執念
ステランティス全体の環境戦略として、ランチアが今後デジタル化や電動化へ舵を切ることは避けられない現実だ。それはビジネスとして正しい。
だが、9月にイタリアで巻き起こるこの熱狂を前にすると、確信せざるを得ない。ランチアというブランドの本当の価値は、ショールームのきらびやかな液晶画面の中ではなく、ローマからトリノまでの道中に撒き散らされるオイルの匂いと、ギヤが噛み合う金属音の中にこそ宿っている。
120年経ってもなお、世界で最も美しく、最も気高く、そして最も手のかかるこのクルマを路上で走らせ続けるイタリアのオヤジたちの執念。
9月、イタリアの背骨を貫く “Lancia Club 120° – Roma-Torino” のタイムラインは、我々エンスーにとって、これからの時代を生き抜くための最高の「果たし状」となるはずだ。



