ランチア:博物館の聖域が動く。120周年を祝うピエモンテの美の祭典“Festival Car 2026”

イタリアの背骨を爆音で貫く縦断ラリー「Lancia Club 120°」の興奮から2週間。9月の終わり、イタリア・ピエモンテ州の静謐な古城を舞台に、今度はもう一つのランチア120周年記念イベントの幕が上がる。

国際クラシックカー連盟(FIVA)の公式カレンダーにもその名を連ねる、格式高きコンクール・デレガンス、『Festival Car 2026 – Concorso d’Eleganza Internazionale』だ。
現地時間2026年9月25日から26日にかけて開催される今年の第5回大会。その特別出展テーマは、言うまでもなく “Celebrazione dei 120 anni di storia Lancia”(ランチアの歴史120周年を祝う)である。
ラリーが「動の熱狂」であるなら、こちらは「静の極致」。そして何よりエンスーを震え上がらせているのは、トリノのステランティス・ヘリテージ公式が、博物館の聖域から歴史的価値の計り知れない3台の伝説的な個体を直出しで連れてくるというファクトだ。

◆ ピニンファリーナが紡いだ、3台の「美の怪物」たち

今回、特別展示の主役としてピエモンテ州サンテナのカヴール城(Castello di Santena)に並ぶことが正式発表された3台。それは、自動車のデザインを「文化財」の域へと高めたランチアの遺伝子そのものである。

  • 1931年製 Lancia Artena(アルテナ) カブリオレ 創業者ヴィンチェンツォ・ランチアが資金を援助し、若きバッティスタ・“ピニン”・ファリーナが独立初期に手掛けた伝説の2トーン・カブリオレ。ランチアとピニンファリーナという、イタリアが誇る二大巨頭の「蜜月の始まり」を象徴する奇跡の個体だ。
  • 1951年製 Lancia Aurelia(アウレリア) B20 GT 世界初の市販V6エンジンを搭載し、近代グランツーリスモ(GT)の概念を決定づけた歴史的名車。展示されるのは、今なお右ハンドル仕様を保つ最初期型「第1シリーズ」であり、わずか500台しか生産されなかった内の1台という、文字通りの家宝である。
  • 1955年製 Lancia Aurelia(アウレリア) B24 Spider リヴァ(Riva)製の高級スピードボートを彷彿とさせる、エレガントなパノラミック・ウインドウ。世界中のコレクターが「地球上で最も美しいスパイダー」と認める、ランチアのエレガンスの頂点がそこに立つ。

◆ デザインの「変態性」に潜む、気高き血統

日本の商業メディアやファッション誌は、おそらくこのイベントを「美しいクラシックカーが集まる華やかなお祭り」として表層的に処理するだろう。しかし、ランチアというブランドの本質は、単なる「お洒落」ではない。
ランチアの美しさの裏には、常にエンジニアたちの過剰なまでの技術的探求——言ってしまえば「変態的なまでのこだわり」が隠されている。
世界に先駆けてモノコック構造や独立懸架を採用し、V6エンジンを実用化する。その狂気じみたメカニズムを、ピニンファリーナやトゥーリングといったカロッツェリアが、この上なく気高いドレスで包み込む。この「技術の狂気とデザインのエレガンスの結晶」こそが、120年前から変わらないランチアの真実なのだ。

ピエモンテの美しい丘陵(ランゲ)の空気を吸いながら、博物館のガラス越しではなく、古城の広場(Piazza Visconti Venosta)の柔らかな光の中でこの3台が並ぶ姿を拝める。2026年の9月末、これを目撃するためだけにイタリアへ飛ぶ価値は、間違いなくある。


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