120年目の踏み絵。ランチア公式が仕掛けるSNS戦略「#LANCIAisYOURS」を辛口に解剖する

ランチアは歴史のノスタルジーに浸るガソリンの匂いから、冷徹な現代のビジネスの最前線へ。メーカーであるステランティス(Lancia公式)が、この120周年という記念すべき年にデジタル空間で仕掛けている。

欧州5カ国(イタリア、フランス、スペイン、ベルギー、オランダ)で大々的にスタートさせたファン参加型プロジェクト。それが、**『#LANCIAisYOURS』**だ。

◆ 新しい「120周年ロゴ」と、デジタルネイティブへの秋波
2026年6月17日、トリノのランチア本国(ロベルタ・ゼルビCEO)から一つのプレスリリースが発信された。そこで披露されたのは、創立120周年を記念する新しいオフィシャルロゴだ。
そして、このロゴとともに始動したのが、TikTokやInstagramを主戦場とする**『#LANCIAisYOURS』**キャンペーンだ。

ブランド側は、世界中の若いクリエイターやデジタルネイティブのファンに向けて、「君たちにとってのランチアの美学(Design CultureやGrace & Grit)を表現したショート動画を投稿せよ」と呼びかけている。お手本として画面に登場するのは、新生ランチアの象徴である新型イプシロンや、物議を醸している次世代フラッグシップ「新型ガンマ(EVファストバック・クロスオーバー)」といった、最新の電動化マシーンたちだ。

◆ エンスーの憂鬱:伝統の「記号化」をどう見るか

我々のようなクラシカルなランチスタからすれば、この光景には正直、一抹の寂しさや「あのランチアがTikTokだと?」という苦笑いを禁じ得ないかもしれない。ストラトスやデルタがラリーフィールドで泥にまみれ、アウレリアがエレガンスの頂点を極めたあの凄絶な時代を知る身からすれば、スマホの画面の中でハッシュタグとともに消費されるランチアは、どこか軽薄に見えるからだ。
だが、ここで感情的に否定し去るのは簡単だが、それは大人のクルマ好きの振る舞いではない。
これはステランティスという巨大資本が、ランチアという「一度は死にかけた気高きブランド」を、現代のマーケットで本気で生き残らせるために仕掛けた、極めて合理的で冷徹な再生ダンスなのだ。過去の圧倒的な栄光(美と狂気)をフックにしてデジタル世代を釣り、ブランドを記号としてリブランディングする。売れなければ、次の130周年も、150周年もないのだから。

◆ 120年目のリアルな回答を受け止める
9月にイタリアの路上を埋め尽くすアウレリアやデルタの咆哮(Lancia Club 120°)は、ランチアの「血」であり「魂」だ。
一方で、画面の中でハッシュタグをまとって踊る新型イプシロンや新型ガンマは、彼らが未来へ繋ぐための「肉体」であり「ビジネス」である。
120周年というロスタイムに、トリノのエンジニアとマーケターたちが仕掛けた、この過去と未来の壮大な交差点。私たちは、それを単なる懐古主義で切り捨てるべきではない。変態的な技術と美学で世界を驚かせ続けたブランドが、姿を変えながらも打っている「次の一手」を、ニヤリと笑いながら見届ける心の余裕こそが、現代の大人に必要なライティング(見識)ではないだろうか。

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