ウエスト・サセックスの広大な丘で開催されている「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード2026」。その熱気渦巻くパドックから、我々トライデントを愛する者にとって見逃せない、極めて重要なマシーンが世界初公開された。


マセラティのレース部門「マセラティ・コルセ」がベールを脱いだその車の名は、「Project GT4」。
その流麗なシルエットが示す通り、ベースとなっているのは新型グラントゥーリズモ(GranTurismo)のアーキテクチャだ。しかし、このマシーンに与えられたメカニズムのドラスティックな変革を知れば、モデナの本気度がただの「市販車のモディファイ」に留まらないことがすぐに理解できるだろう。

■ 400kgの肉落としと、AWDからの「先祖返り」
市販の新型グラントゥーリズモ(Modena/Trofeo)を知る人なら、それが極めて洗練された全輪駆動(AWD)と、極上のエアサスペンションを備えた重量級のモダン・グランドツアラーであることをご存知のはずだ。
しかし、この「Project GT4」は違う。 国際GT4レギュレーション、そしてプライベーターやアマチュアドライバーが勝利するための「純粋な戦闘力」を追求した結果、マセラティ・コルセが下した決断は、フロントの駆動系を完全に廃止すること――すなわち、純血の後輪駆動(RWD)への回帰だった。
高度な最適化が施されたアルミプラットフォームをベースに、豪華な4シーターの快適装備や防音材、そしてAWDシステムを文字通り徹底的に削ぎ落とした結果、市販ロードカー比で「約400kg(882ポンド)」という凄まじい軽量化を達成している。
足回りには、ロードカーの「Trofeo」のジオメトリをベースにしつつ、サーキットのミリ単位の要求に応えるレース専用のアジャスタブル(調整可能)ダンパーとアンチロールバーを装備。ホイールはGT4規約に準拠した18インチ、そして専用の冷却ダクトを備えたブレーキシステムが奢られている。


■ フロントに縦置きされる「F1の遺伝子」
長いボンネットの下、フロント・ミッドシップの位置に縦置きされるのは、もちろん3.0L V6ツインターボ「ネットゥーノ(Nettuno)」だ。
F1由来のプレチェンバー(副室)燃焼技術を持つこの心臓部は、すでにサーキット専用の「MCXtrema」や上位カテゴリーの「マセラティ GT2」でその堅牢性とポテンシャルを証明済みであり、特定アプリケーションでは700馬力オーバーを叩き出す。GT4では今後、性能調整(BoP)に適合するようパワーバランスが最適化されることになるが、軽量化されたRWDシャシーを振り回すには、これ以上ない獰猛なユニットであることに疑いの余地はない。
■ リベリーに隠された、100年の歴史への敬意
グッドウッドでお披露目されたプロトタイプが纏うカラーリング(リベリー)も、我々の胸を熱くさせる。
- ホワイトのフロントマスク:1958年にスターリング・モスが駆った、あの高名なインディカー『420M/58 “Eldorado”(エルドラド)』への直球のオマージュ。
- イエローとブルー:マセラティの魂の故郷であるモデナ(Modena)市のシンボルカラー。
- ルーフからリアへのグラフィック:トライデントロゴの誕生100周年、そしてマセラティのモータースポーツ参戦100周年を祝う、100個の小さなトーン・オン・トーンのトライデントが散りばめられている。

■ 2028年、サーキットが再びトライデントの咆哮で満たされる
かつて2004年の「トロフェオ・ライト(グランスポーツ・ベース)」を皮切りに、先代の「グラントゥーリズモ MC GT4」にいたるまで、マセラティはGT4カテゴリーの歴史において常に重要な足跡を残してきた。


今回の「Project GT4」は、まさにその栄光のタイムラインを現代に呼び戻す正統なる後継者だ。チーフテストドライバーのアンドレア・ベルトリーニ氏の手によってここから熟成が進められ、実際のサーキットへの実戦投入(デリバリー)は「2028年シーズン」をターゲットにしているという。
ミッドシップの「GT2」に加え、フロントにネットゥーノを積んでリアを滑らせる「GT4」が加わる。ロードカー部門が電動化への過渡期で激動の渦中にある今だからこそ、レースという純粋なゆりかごの中でトライデントの血統を研ぎ澄まし続けるマセラティ・コルセの姿勢に、我々エンスーは心からの拍手を送るべきではないだろうか。
2028年、世界のGT選手権のグリッドで、この美しいファストバックがポルシェやアルファロメオの牙城にどう挑むのか。今から待ちきれない。
