幾千の記憶と機械の脈動――ボローニャ「Auto e Moto d’Epoca 2026」会場を彩った美しき名車たち(1)

パドヴァからボローニャFiere(ボローニャ・フィエラ)へと舞台を移し、欧州最大級のクラシックカーの殿堂となった「Auto e Moto d’Epoca(オート・エ・モト・デポカ)2026」。
広大なパドックに一歩足を踏み入れれば、そこは時代を超えた造形美とメカニズムがひしめく魅惑の小宇宙だ。数ある展示の中でも、特に筆者の目を奪い、息をのませた珠玉のイタリア車たちを会場の臨場感とともに振り返りたい。

フェラーリ 857 S(Ferrari 857 S / 1955年)

グリーン上に佇む深いエンジ色(マルーン)のバルケッタは、1955年にわずか数台のみが製作された極めて希少なレーシングスポーツ「フェラーリ 857 S」です。
先ほどの説明で「V4エンジン」と誤記しておりましたが、正しくはアウレリオ・ランプレディが設計した名機3.4リッター(3432cc)直列4気筒 DOHCエンジン(ティーポ129)を搭載しています。1気筒あたりの排気量が約857ccであることから「857 S」と命名されました。
スカリエッティの手によるノーズの白いカラーリングと艶やかなフェンダーラインが言葉を失うほど美しい佇まいを誇ります。翌1956年の860モンツァへと繋がる過渡期に開発され、ツーリスト・トロフィーやル・マン、アメリカのレーシングシーンで活躍した本物の競走馬が放つオーラは、パドックの中でも他を圧する凄みに満ちあふれていました。

デ・トマソ・パンテーラ(De Tomaso Pantera)

まず足を止めたのは、鮮やかなイエローのボディを纏った1971年式の「デ・トマソ・パンテーラ」だ。トム・ジャーダの手による直線的かつロー&ワイドな造形美は、今見ても色褪せぬ野性的な迫力を放っている。アメリカンV8の重厚なビートとイタリアン・スタイリングが融合したこのスーパーカーは、まさに70年代という激動の時代を象徴する異端のアイコンである。

ビッザッリーニ 5300GT GT STRADA(Bizzarrini 5300 GT GT Strada)

深みのあるルビーレッドのボディにゼッケン「196」を冠した「ビザラリーニ 5300GT」。フェラーリ 250GTOの生みの親である天才エンジニア、ジオット・ビッザリーニが創り出したこのマシンは、極限まで後方に配置されたフロントミッドシップのV8エンジンと低く地を這うエアロダイナミクス造形が圧巻だ。サーキットの狂気をそのままロードカーへと昇華させた、イタリアン・レーシング史の熱量そのものがそこにあった。

フィアット・アバルト 1000 SP(Fiat Abarth 1000 SP)

鮮烈なレッドのボディにトリコローレのストライプが映える「フィアット・アバルト 1000 SP」。1966年の伝説的なレース仕様へのオマージュとして近年に限定生産されたこのモデルは、極限まで抑え込まれたローフォルムとノーズのエアインテークが強烈なレーシングスピリットを訴えかけてくる。サソリのエンブレムが誇らしげに輝く、走るためだけに生まれた純粋な血統だ。このフォルムからしてお判りいただけると思うがベースはアルファロメオ4Cである。

アルファロメオ TZ1(Alfa Romeo Giulia TZ)

赤と白の鮮やかなレーシングカラーを身に纏い、パドックの一角で異彩を放っていた「アルファロメオ ジュリア TZ(TZ1)」。
「Tubolare Zagato(チューブラー・フレームにザガート製ボディ)」の名が示す通り、チューブラーフレームに軽量なアルミボディを被せ、名門ザガートが空力性能を徹底的に追求した伝説のコンペティションモデルだ。
ノーズからリアへと滑らかに流れる曲線美と、空力効果を狙ってバッサリと切り落とされたリアエンド「コーダ・トロンカ(Coda Tronca)」のフォルム。サーキットで勝利を掴み取るためだけに削ぎ落とされたレーシング・アルファの純粋な機能美は、半世紀以上の時を経てもなお、観る者の心を掴んで離さない凄みを漂わせている。

フェラーリ 212/225 S エクスポート ベルリネッタ(Ferrari 212/225 S Export Berlinetta / 1951年)

会場のレッドカーペット上で、優美なライトブルーとホワイトのツートーンカラーを纏い静かに佇む「フェラーリ 212/225 S エクスポート ベルリネッタ」。
左脇の解説パネルにも記されている通り、この車両(シャーシNo.0104E)は1951年に当初「212 エクスポート」として誕生し、後にフェラーリ工場で「225 S」仕様(2.7リッターV12)へとアップグレードされた極めて稀少なレーシング・ベルリネッタです。
ボディデザインを手掛けたのは、名門カロッツェリア・ヴィニャーレ(ジョヴァンニ・ミケロッティ)。大開口のエッグクレート・フロントグリル、その内側に収められたドライビングランプ、そしてなだらかな曲線を描くルーフラインは、1950年代初期のヴィニャーレ特有の繊細かつ華やかなデザイン美学そのものです。
212エクスポートの中でヴィニャーレがボディを手掛けたのはわずか10台、そのうちクーペ(ベルリネッタ)ボディはわずか7台のみ。ミッレミリアやタルガ・フローリオをはじめとする世界のレーシングシーンで活躍した初期フェラーリの血統と、職人技によるエレガンスが完璧に同居する、サローネ展示車の中でも屈致の至宝と言える一台です。

GTAmの3台揃い踏み

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