10月21日、秋深まる風を感じながら友人を伴い、車で東へと向かった。目指すは、ポー川のデルタ地帯手前に佇む世界遺産の都市、フェラーリ(Ferrara)だ。


フェラーラは13世紀から16世紀末にかけ、名門エステ家(House of Este)の統治下で奇跡的な繁栄を遂げた都市である。中世の入り組んだ路地と、15世紀末に建築家ビアジョ・ロセッティが主導した都市計画「アッディツィオーネ・エルコレア(エルコレの都市拡大計画)」による近代的な直線道路が見事に融合した空間は、ヨーロッパ初の「理想都市」としてユネスコ世界遺産に登録されている。
水堀に守られたエステ家の絶対的権能「エステンセ城」
街の中心に降り立つと、まずその圧倒的な威容で目に入るのがエステンセ城(Castello Estense)だ。1385年、民衆の暴動に危機感を抱いたニココロ3世らが自らの身を守る要塞として築いたこの城は、今も朗々と水をたたえる大きな堀と重厚な赤煉瓦の塔で周囲を断絶している。


城内に歩みを進めると、外観の堅牢な要塞感とは一転し、エステ家が愛した芸術と文化の香りが漂う。


高台のテラス(Giardino degli Aranci)に登れば、眩しい秋空のもと、鮮やかなオレンジ(柑橘)の木々が鉢植えで並び、その向こうに煉瓦造りの城塔がそびえ立つ印象的な景観が広がる。さらに城塔の最上部まで足を伸ばすと、赤瓦の屋根が地平線まで連なるフェラーラの壮大な街並みを一望することができた。



館内の回廊や広間には、歴史を彩った長官や貴族たちの紋章が誇らしげに掲げられ、壁面や天井にはエステ家好みの神話画や肖像画が壁一面を埋め尽くしている。とりわけ、一族の栄華を象徴する君主の肖像や、精巧な浮き彫りレリーフからは、ルネサンス宮廷文化の頂点に君臨した彼らの絶対的な自負が強く感じられる。
ダイヤモンドの輝きを刻む「ディアマンティ宮殿」
エステンセ城を後にし、直線的な美しい大通りを進むと、フェラーラ建築の至宝ディアマンティ宮殿(Palazzo dei Diamanti)が現れる。



15世紀末、エルコレ1世・デステの弟シジスモンドのために建てられたこの宮殿の最大の特徴は、壁面全体を覆い尽くす約8,500個もの大理石だ。先端がダイヤ型にカットされたファサードの石組みは、太陽の光を受ける角度によって刻一刻と陰影を変え、まるで建造物全体が光を放つ宝石のように佇んでいる。計算し尽くされた幾何学模様の美しさは、ルネサンス建築の幾何学的美学の極みと言えよう。
聖なる光と、街角の静けさ
街歩きの途中で立ち寄った聖堂では、ドーム状の天井に描かれた壮麗な天井画に出会うことができた。中央の天窓から差し込む柔らかい光が、聖人や天使たちを描いた色鮮やかなフレスコ画を照らし出し、静寂の中に神秘的な空間を創り出していた。


歴史的建造物を巡ったあとは、テラス席のあるカフェで一休み。かつて宮廷人や詩人アリオストが歩いたであろう石畳の路地を眺め、エミリアの大地が育んだ深い歴史と風情に浸る。


マントヴァのゴンザーガ家と並び、この北イタリアの文化を牽引したエステ家の威光。赤煉瓦の城壁とダイヤモンドの壁面が織りなすフェラーラの街並みは、時を超えてなお訪れる者を魅了してやまない、気品と情熱に満ちあふれた空間であった。
